STORY ストーリー
奈良県の東北端に位置する曽爾村(そにむら)。村の西側には柱状節理の岩壁があらわな屏風岩、兜岳、鎧岳が連なり、東側にはススキの大海原で有名な曽爾高原が広がる。とにかくユニークな景色にあふれた村だ。村の大半は室生赤目青山国定公園に指定され、「日本で最も美しい村」連合にも加盟している。この村を訪れ「スイスのようだ」と表現する人もいるほど。
結婚を機に故郷の奈良県・高取町から曽爾村へ移住した森裕香子さんが、前田エマさんを出迎え、村内の各地へと案内してくれた。
屏風岩公苑を訪れた前田さんは、こう描写した。「今日はお日様が照って、雪が白く輝いてきれいでした。ここが春には桜が満開になったり、夏は鮮やかな緑で生命の息吹を感じられたりするんですよね。そう聞くと、一瞬一瞬を見落としてはいけないって思いますね」。
二人は、『曽爾高原ゆず生産組合たわわ』の加工場へ。前田さんにとって、村の生産者に出会えたのは特別なことだったようだ。「おばあさんたちが『あぁでもない、こうでもない』と言いながら一生懸命製造されていました。まるで絵本の一場面を見ているようで尊いなと感動しました!」。
森さんは、おばあさんたちから2021年に「新商品をつくりたい。自分たちだけではむずかしいから一緒に考えてくれへん?」と相談され、一緒に開発をしたそう。「そうして完成したのが、ゆずシロップです」と、森さん。
また、ほうれん草農家の奥西章夫さん・幾代さん夫妻の圃場にも足を運び、「大和寒熟ほうれん草」の収穫も体験した。前田さんは「ほうれん草のメインは葉の部分だと思っていたんですが、茎や根っこまであんなに甘くておいしいとは」と驚いた様子。「曽爾村ならではの寒さにあてることで、ほうれん草が自分の身を守ろうとして糖度が上がっていくんです」と、森さん。
曽爾村では、生産者や生産物を有機的につなげる取り組みも進んでいる。現在森さんが運営コーディネーターを務めるシェアキッチン『そにのわの台所katte』だ。かつて蕗の佃煮や桑の実ジュースを製造していた農産物加工所をリノベーションした施設。「勝手口、台所、自由に、糧」などの意味を合わせて名付けられた。キッチンは製造許可付きで、農業者や移住者など地域住民が集う場所になっている。
森さんは今後について「積極的に生産をされているのが70〜80代の方たちなので、移住者やUターン者など若い世代が増えないと近い将来、途絶えてしまうかもしれない。おいしい野菜や一生懸命作られてきた加工品を次の世代につなぐ役割になれたらと思っています。共感してくれる人が村に移り住んだり村に戻ってきたりして、携わってくれたら」と展望を話してくれた。
前田さんは、宿泊した『そに木霊リゾート垰TAWA』のオーナー・森田千裕さんとも話ができた。三重県伊賀市に住んでいた森田さんは、「東海エリアの端である伊賀市と、関西エリアの端である曽爾村を、食材や場を通じてつなげるような活動がしたい」とオープンの理由を語ってくれた。
明治、大正、昭和に建てられた建物をリノベーションした施設は、古き良きものを残し、漆喰など森田さんのこだわりが随所に光っている。
また、施設内のすべての水道から出る平成の名水百選に選ばれた曽爾高原から流れる湧き水や、徒歩圏内にある、とろみのある泉質が特徴の温泉施設『お亀の湯』など、自然の豊かな恵みを堪能することもできる。
前田さんが「これからの夢やプランがありますか?」と聞くと、森田さんは次のように答えた。「最近のお客さんは食べるだけ、泊まるだけではなくて、体験を大きな目的にいらっしゃいます。体験メニューを充実させていきたいですね。また、ぜひここを拠点に、もっと広域にとらえた旅をしていただけたらと思っています。例えば、伊勢神宮から来られる方もけっこういらっしゃいますよ」。
森田さんのおすすめのアクティビティの一つが、あらゆる景色を体験できる乗り物だ。「普通自動車の免許で二人乗りができる三輪バギーがおすすめです。乗ること自体が楽しいので、村内をまわるのに車よりも長い時間をかけて寄り道をして遊んでくださる方が多いです」。
森田さんは日本山岳ガイド協会の資格も持っているため、山の案内をする活動もしている。案内しているのは難易度の異なる5コースほどで、四季のさまざまな景色を楽しめるという。
訪れる人の好みや目的に応じて、さまざまなコンテンツでもてなせるのが曽爾村の強みではないだろうか。さらに、今回案内をしてくれた森さんと森田さんのように、村への愛情をもつ移住者の目線や言葉を経ると、そのコンテンツの味わいはより濃密なものになっていく。二人に感謝を伝える前田さんの満足した表情が、それを物語っていた。