STORY ストーリー

GUEST PROFILE

ゲストプロフィール

  • (左)前田エマ

    神奈川県生まれ。東京造形大学卒業。オーストリアウィーン芸術アカデミーに留学経験を持つ。在学中からモデル、エッセイ、写真、ペインティング、朗読、ナレーションなどの活動が注目を集める。芸術祭やファッションショーなどにモデルや朗読者として参加したり、自身の個展を開いたりするなど幅広く活動。現在は『オズマガジン』などのメディアにてエッセイを連載中。 https://nfbnfb.co.jp/model/emma_maeda/

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STORY ストーリー

奈良県の東北端に位置する曽爾村(そにむら)。村の西側には柱状節理の岩壁があらわな屏風岩、兜岳、鎧岳が連なり、東側にはススキの大海原で有名な曽爾高原が広がる。とにかくユニークな景色にあふれた村だ。村の大半は室生赤目青山国定公園に指定され、「日本で最も美しい村」連合にも加盟している。この村を訪れ「スイスのようだ」と表現する人もいるほど。
結婚を機に故郷の奈良県・高取町から曽爾村へ移住した森裕香子さんが、前田エマさんを出迎え、村内の各地へと案内してくれた。
屏風岩公苑を訪れた前田さんは、こう描写した。「今日はお日様が照って、雪が白く輝いてきれいでした。ここが春には桜が満開になったり、夏は鮮やかな緑で生命の息吹を感じられたりするんですよね。そう聞くと、一瞬一瞬を見落としてはいけないって思いますね」。

二人は、『曽爾高原ゆず生産組合たわわ』の加工場へ。前田さんにとって、村の生産者に出会えたのは特別なことだったようだ。「おばあさんたちが『あぁでもない、こうでもない』と言いながら一生懸命製造されていました。まるで絵本の一場面を見ているようで尊いなと感動しました!」。
森さんは、おばあさんたちから2021年に「新商品をつくりたい。自分たちだけではむずかしいから一緒に考えてくれへん?」と相談され、一緒に開発をしたそう。「そうして完成したのが、ゆずシロップです」と、森さん。

また、ほうれん草農家の奥西章夫さん・幾代さん夫妻の圃場にも足を運び、「大和寒熟ほうれん草」の収穫も体験した。前田さんは「ほうれん草のメインは葉の部分だと思っていたんですが、茎や根っこまであんなに甘くておいしいとは」と驚いた様子。「曽爾村ならではの寒さにあてることで、ほうれん草が自分の身を守ろうとして糖度が上がっていくんです」と、森さん。

曽爾村では、生産者や生産物を有機的につなげる取り組みも進んでいる。現在森さんが運営コーディネーターを務めるシェアキッチン『そにのわの台所katte』だ。かつて蕗の佃煮や桑の実ジュースを製造していた農産物加工所をリノベーションした施設。「勝手口、台所、自由に、糧」などの意味を合わせて名付けられた。キッチンは製造許可付きで、農業者や移住者など地域住民が集う場所になっている。
森さんは今後について「積極的に生産をされているのが70〜80代の方たちなので、移住者やUターン者など若い世代が増えないと近い将来、途絶えてしまうかもしれない。おいしい野菜や一生懸命作られてきた加工品を次の世代につなぐ役割になれたらと思っています。共感してくれる人が村に移り住んだり村に戻ってきたりして、携わってくれたら」と展望を話してくれた。

前田さんは、宿泊した『そに木霊リゾート垰TAWA』のオーナー・森田千裕さんとも話ができた。三重県伊賀市に住んでいた森田さんは、「東海エリアの端である伊賀市と、関西エリアの端である曽爾村を、食材や場を通じてつなげるような活動がしたい」とオープンの理由を語ってくれた。
明治、大正、昭和に建てられた建物をリノベーションした施設は、古き良きものを残し、漆喰など森田さんのこだわりが随所に光っている。
また、施設内のすべての水道から出る平成の名水百選に選ばれた曽爾高原から流れる湧き水や、徒歩圏内にある、とろみのある泉質が特徴の温泉施設『お亀の湯』など、自然の豊かな恵みを堪能することもできる。

前田さんが「これからの夢やプランがありますか?」と聞くと、森田さんは次のように答えた。「最近のお客さんは食べるだけ、泊まるだけではなくて、体験を大きな目的にいらっしゃいます。体験メニューを充実させていきたいですね。また、ぜひここを拠点に、もっと広域にとらえた旅をしていただけたらと思っています。例えば、伊勢神宮から来られる方もけっこういらっしゃいますよ」。
森田さんのおすすめのアクティビティの一つが、あらゆる景色を体験できる乗り物だ。「普通自動車の免許で二人乗りができる三輪バギーがおすすめです。乗ること自体が楽しいので、村内をまわるのに車よりも長い時間をかけて寄り道をして遊んでくださる方が多いです」。

森田さんは日本山岳ガイド協会の資格も持っているため、山の案内をする活動もしている。案内しているのは難易度の異なる5コースほどで、四季のさまざまな景色を楽しめるという。
訪れる人の好みや目的に応じて、さまざまなコンテンツでもてなせるのが曽爾村の強みではないだろうか。さらに、今回案内をしてくれた森さんと森田さんのように、村への愛情をもつ移住者の目線や言葉を経ると、そのコンテンツの味わいはより濃密なものになっていく。二人に感謝を伝える前田さんの満足した表情が、それを物語っていた。

PROFILE

関係案内人

  • (左)森裕香

    『そにのわの台所katte』の運営コーディネーター。奈良県生まれ。神戸でウエディングプランナーとして働き、観光で訪れた新潟のアートイベントをきっかけに地域活性化に興味を持つ。2015年、奈良県・高取町にUターンし、奥大和の移住相談員に。2020年4月、曽爾村に移住。地域おこし協力隊として活動を始め、食を起点に人々がつながる『そにのわの台所katte』の立ち上げから関わる。 https://www.facebook.com/katte.soninowakitchen/

  • (左)森田千裕

    『株式会社そに木霊(こだま)プロジェクト』代表。三重県伊賀市に住み観光の仕事をしていたが、2017年、地域おこし協力隊として曽爾村に移住。2019年7月、レストランや民宿を備えた複合型リゾート施設『そに木霊リゾート垰TAWA』をオーナーとしてオープン。宿泊者を対象にノルディックウォーク、収穫体験、自分たちで収穫した野菜を使った料理などの企画も行う。 https://soni-kodamaresort.com/

SPOT スポット

  • 屏風岩公苑

    国の天然記念物に指定されている、標高940mの屏風岩の麓に広がる公苑。屏風岩は兜岳の西側で、まるで屏風を立てたように屹立している。その幅は2キロあり、鋸の刃のように鋭くそびえ、垂直に柱状節理の岩壁が約200mの断崖をなしている。公苑には、春には大木の山桜が咲き乱れ、秋には紅葉で彩られる。その美しさや岩壁とのコントラストは圧巻。

    住所 :奈良県宇陀郡曽爾村長野
    HP :https://sonimura.com/sightseeing/4/

  • 曽爾高原ゆず生産組合たわわ

    屏風岩に連なる多輪峯山の山裾にある小長尾という集落にゆずが実っていて、小長尾に暮らす人々が2016年頃からその特産品開発にチャレンジ。ゆずがたわわに実り、多くの人の輪をつくりたいという思いを込めて生産組合を立ち上げた。育てたゆずを一つひとつ丁寧に手しぼりし、香りの良い果汁を使った商品を製造している。「そにのわマルシェ」のオンラインショップなどで販売中。

    住所 :奈良県宇陀郡曽爾村小長尾249-1
    HP :https://soninowa-marche.shop-pro.jp/?pid=152002243

  • ほうれん草農家 奥西章夫さん・幾代さん

    曽爾村でほうれん草や千筋みずななどの葉もの野菜を生産している。章夫さんは、30軒ほどのほうれん草農家で設立された「曽爾村ほうれん草部会」に所属。同部会では、糖度10以上の数値基準をクリアしたほうれん草を出荷している。幾代さんはコンニャクの加工グループのリーダーも務める。ほうれん草は「そにのわマルシェ」のオンラインショップなどで販売中。1〜2月限定。

    HP :https://soninowa-marche.shop-pro.jp/?pid=151952705

  • そにのわの台所katte

    製造許可付きシェアキッチンを備えた、村の交流拠点。気軽に商品開発や製造にチャレンジできる。村のゆかりの郷土料理・加工品づくりをワークショップ形式で学べるシェアルームや、村で採れた食材の加工品が並ぶSHOPルームも併設。食を起点に人がつながる交流拠点を目指している。毎週水曜には曽爾村で収穫したばかりの野菜を販売する「そにのわマルシェ」を開催。

    住所 :奈良県宇陀郡曽爾村今井466
    HP :https://www.facebook.com/katte.soninowakitchen/

  • そに木霊リゾート垰TAWA

    古民家と蔵をリノベーションした宿泊施設で、レストラン、エステサロン、キャンプ場も併設。建物の壁はすべて、抗菌・抗ウイルス効果がある漆喰塗り。レストラン2階部分の部屋貸しと蔵1棟貸しの1日2組限定。最大8人まで受け付けている。平成の名水百選に選ばれた曽爾高原から流れる湧き水を使った宿の水や、曽爾産のお米を竈炊きしたご飯が人気。

    住所 :奈良県宇陀郡曽爾村太良路664
    HP :https://soni-kodamaresort.com/

  • 曽爾高原

    日本300名山の一つ倶留尊山のふもとに、この山から亀の背に似た亀山を結ぶ西麓に広がる高原。ススキで一面を覆われ、春から夏にかけては一面に青い絨毯が敷かれたような爽快な姿を、秋にはススキの穂が陽射しを浴びて輝く景色を楽しめる。高原の中腹には「お亀伝説」が残るお亀池があり、湿原特有の希少な植物を見ることもできる。毎年3月中頃に山焼きが行われる。

    住所 :奈良県宇陀郡曽爾村太良路
    HP :https://sonimura.com/sightseeing/1/

MOVIE ムービー

text by Yoshino Kokubo

photos by Kiyoshi Senta

film by Takashi Nagano【Create ESM】
(music Mineo Kawasaki)

illustration by Atsushi Nagato (DESIGN MAP)